インプラント治療の歴史

インプラント治療の起源は古代?!

インプラント治療が一般の人に適応されだしたのは1960年代以降のことです。それ以降インプラントの技術は著しい進歩をとげ、今もなお発展を続けオールオン4などの技術開発に至っており、インプラントの世界は日進月歩です。私達医療者スタッフもうかうかしていることはできません。日々切磋琢磨して新しい技術を身につけるべくまい進しなければならないのです。さて、ここでインプラントの理解を深めるために、その歴史をひも解いてみましょう。

古代人も歯の治療にインプラントを?!

インプラント治療の歴史は思いのほか古く、その期限は遠く紀元前にまでさかのぼります。例えばインカ文明のミイラからサファイアの歯根が発見されたりエジプト文明に歯の抜けたところへ象牙や宝石を埋める試みがあったりしたとの報告もあるようです。それらのなかには、埋葬された人物が来世で不自由なく噛めることを願って、死後埋め込まれた儀式のようなものもあったかもしれません。ところが20世紀になってから発見された西暦700年代のヤマ族の女性の下顎の骨には歯根とすでに一体化した貝殻が埋め込まれていたということが報告されています。どう考えても生前に行われたインプラント治療としか結論できないでしょう。これらのことから永久歯が抜け落ちた後の治療法の一つとしてインプラントはかなり以前から選択肢の一つとして存在していたことがうかがえます。以降、エメラルド、鉄、金、サファイア、コバルト、クロム合金、ステンレス、アルミニウムなどさまざまな素材が試されましたが、結局これといった決め手もなく自然に淘汰されていきました。現在のようにデンタル・インプラントが一般的な治療法として認められ普及したのはチタンがインプラントとしての特質を持っていることが発見されたからです。

偶然の産物、チタンの特質の発見

みなさんがすでにご存知のように現在インプラントの素材には主にチタンが使われています。おそらく今後もチタン以上にインプラントに適した素材は出てこないでしょう。それほどインプラント材としてほかに類をみない特質を持っているのです。その発見は、偶然の出来事からでした。発見したのは、スウェーデンのブローネマルク博士です。1952年もともと応用生体工学研究所の所長だったブローネマルク博士はある大学の医学部で骨が治癒する過程において、骨髄がどのような役割を果たすかを研究していました。実験を終えて、ウサギのすねに埋め込んだ生体顕微鏡用のチタン製器具を取り出そうとしたところ、しっかりと骨にくっついてしまい、どうしてもはがすことができませんでした。それまでは他の金属類でそのような経験をしたことがなかったブローネマルク博士は大いにその現象に興味をもちます。その後、血液循環の研究などにおいても、彼は次々とチタンの特質を目の当たりにすることになります。それらの偶然の発見から、「チタンは骨に拒否反応をおこさず、結合する」ことを確信したのです。

ブローネマルク・システムの誕生

これを彼はオッセオインテグレーション(骨結合)と命名し、以来さまざまな実験のすえ、歯科治療への応用を探り、1965年ついに人間に臨床応用したのです。
それがなぜ歯科だったのかというと足や腕の骨であれば取り出しにくいため観察できないということもあったでしょうが、口の中の顎骨は、体の内部と外の世界との境界面でもあるからです。ちなみに世界で始めてブローネマルク・システムによるインプラントの治療を受けたのは、ヨスタ・ラーソンという男性です。
生まれつき顎の骨が弱く、数本しか歯が無かったそうですが、手術は無事に成功。
インプラントは彼が亡くなるまで40年間もの間、問題なく機能したそうです。
おそらく彼にとって奇跡に近い出来事であったに違いありません。

世界へ広がるチタンの使用

チタンのこの特性の発見は、デンタル・インプラントの分野における画期的なターニングポイントとなりました。
これ以前には、金(ゴールド)やコバルトクロム合金などがインプラントの素材として使われていましたが、ブローネマルク・システムが確立され発表されてからは、世界中でほとんどチタンが使われるようになりました。
それが20世紀の後半のことですから歴史的にはまだついこの間のことなのです。

そして、オールオン4へ

オッセオインテグレーションの発見からほぼ半世紀後、手術後に仮歯が即セットできるというクイック・インプラント・システムが開発されました。
振り返ると80年代には機能を重視するあまり、審美的な配慮はされていませんでした。
噛めるようになっただけで満足していたからです。
ところが90年代後半になると、機能以外にも見た目の美しさも要求されるようになります。
そして骨移植をはじめとする再生治療の進歩がインプラントの技術をさらに向上させ、とうとう 2000年代には、機能的にも審美的にも優れ、インプラント治療最大の課題であった治療期間の短縮にもつながるインプラント治療の開発に到達します。
それがノーベルバイオケア社の「ALL-ON-4」(オールオン4)の誕生なのです。
開発者のポール・マロ博士です。
総入歯患者に向けた代表的なシステムです。通常4本(場合によっては4~8本)のインプラントで12~14本の歯を支えます。
上下顎ともに実施するなら最低8本のインプラントだけで最大28本の歯を支えることが可能になったのです。